「なーなー、マンコって知っとる!? マンコ! マンコ!」
中学一年の夏休み明けの頃だったろうか、どこから仕入れてきたんだか、覚えたばかりの単語「マンコ」を連呼しながら、クラスメートのアベくんが教室に駆け込んで来た。
おそらく今のボクが「マンコ」なんて連呼しながら会社の事務所に入って行ったら、完璧にキチガイだと思われるんだろうけど(それに近い事はやってるが…)、インターネットなんてなかった頃、群馬の片田舎の中学生にとって「マンコ」なんて未知の言葉だったので、男子も女子も「マンコ? 何それ」などと普通に聞き返していた。
大体クラスに一人はいる、すぐにお調子に乗ってしまうバカ丸出し童貞中学生のアベくんは、その反応に気をよくして、さらにテンションを上げ「エーッ、マンコ知らないの!? マンコだよ、マンコ!」とまくし立てた。今思えば女子の口から「マンコ」という単語が発せられるのを聞いて興奮していたんだろう。
ボクはその時、エロ丸出しの顔で「マンコ」を連呼するアベくんと、純粋な顔で「なんだよマンコって、教えてよ」などというやり取りをしているクラスメートたちのやりとりを、教室の端っこで見ていた。
実は、ボクはその時既に「マンコ」という言葉を知っていたのだ。…イヤ、正確には、言葉は知っていたが意味は知らなかった。…というのも、当時ボクが所有していた中でも非常にお気に入りのエロ本の中に、チャイナ服をはだけた女性があられもないポーズを取っている写真、そしてその上に「ニーハオ・マンコ!」という見出しがついているページがあったのだ。
今思えば、ホントたわいのないエロ・ギャグなんだけど、「ニーハオ・マンコ」という謎の言葉は当時のボクの頭の中に異常に印象に残っていた。
チャイナ服だから「ニーハオ」はわかるけど「マンコ」って何だ? この女性の名前だろうか…などと考えをめぐらせ、辞書などを引いてはみたものの載っているハズもなく、エロスに関するワードなんじゃないかと薄々感づいていたために、親にも先生にも聞くことができず(大正解だったけどね)、結局ボクの中で「マンコ」の意味は迷宮入りしてしまっていたのだが、今になって謎のワード「マンコ」を知っているクラスメートが現れようとは!
ボクはハッキリ言って、アベくんとは仲良くはなかった、…というかむしろ、教室で「マンコ」を連呼してしまうことからもわかるように下世話で、がさつで、バカ丸出しな気質を持つアベくんの事を嫌ってすらいた。しかし「マンコ」の謎に対する好奇心はそれを上回っていたのだ。
ボクはおずおずとアベくんの元に近寄りこう聞いた「マンコって…何?」と。
その日の放課後。「マンコ」に特に興味を持って食らいついてきた数人の男子を教室に集めて、アベくんによる「マンコの真実」発表会が開催された。「女のアソコの事をマンコって言うんだよ」ざわっざわっ…。アベくんの発言に教室の一角が「カイジ」の如くざわついた。それまで「女のアソコ」などという抽象的な表現でしか呼ぶことが出来なかった女性器に正式名称があったとは…そう言われてみれば「マンコ」…なんていう淫靡な響きなんだッ…。
バカ男子たちの異常にいい反応を見て、例の如くお調子に乗ったアベくんはさらに続けた。
「それよりお前ら、女のアソコってどうなってるか知りたくないか!?」
ガーン! なんとアベくんは「マンコ」の意味だけではなく、童貞カチカチの男子中高生にとって永遠のユートピア・女のアソコの姿まで知っているというではないか!
「し…知らないよ!」
「…じゃあ、オレが書いて説明してやるよ」
おもむろにチョークを持つアベくん。教室内のテンションはうなぎ登り、ボクらのおチンチンもはち切れんばかりにパンパンになっている! …やがて黒板に描き出されたアベくん画によるマンコ図…。フランダースの犬で、ネロが死ぬほど見たがっていたレンブラントの絵を遂に見ることが出来た時以上の感動が教室中に広がった。
…その絵には、股間にはフサフサとした陰毛、そしてその下に…チョウチョの口の如くクルクルと丸まった管状のモノが描かれていた…。
アベくん曰く「女のチンチンは普段は丸まってるから見えないけど、小便する時には伸びるんだ」…とのこと。…ま、大嘘つきもいいところなんだけど、真実を確認する術のない当時のボクらは、素直に信じ、女のアソコというユートピアの真実の姿を知って超感動した。
「マンコ! マンコ!」
誰からともなくかけ声があがった、そしてやがてそれは教室中に広がる。
「マンコ! マンコ! マンコ! マンコ!」
…シュプレヒコールの嵐。
なんかわからないけど、異常な興奮状態に包まれたボクたちは、アベくんを先頭にして走り出した…! 夕日に向かって…。
それからボクらのクラスでエロ・オピニオンリーダーとなったアベくんは次々と「女のアソコには五つの穴が空いている」「座ってる時に足を組まない女はヤッている」「赤い布を見せると女は興奮して濡れる」等の新説を発表して、その度にボクら男子は「へぇ~
、へぇ~」と感動しまくっていたのだった。
…ま、中三になる頃には、正確な性知識が広まり出し、アベくんは大嘘つきっぷりがバレて、完全にクラスからドロップアウトしていったんだけど…。
<「RoofTop」九月号掲載「北村ヂンのセンチメンタル★高校13年生」より>